SOFTBANK WORLD 2026 / 特別講演 要約

2040年、AIは世界GDPの20%になる。
だから今、15年後から逆算せよ。

孫正義氏の講演を11のテーマに分解して整理した。全編を貫くのはひとつの主張──「ビジョンとは形容詞ではなく、期限と数値である」。以下、講演で示された数字と、その数字がなぜ成立するのかという論理の連鎖をたどる。

対象年 2040年(15年後) テーマ ASI(超知能)経済 整理日 2026-09-03 出典 SoftBank World 2026 特別講演
世界GDPに占める比率
20%
残り80%は今までどおり
年間売上規模
7,000兆円
利益率50%=3,500兆円
AIエージェント
100兆個
ホワイトカラーの主役
ヒューマノイド
10億体
肉体労働の主役
データセンター電力
3TW
以降 毎年1TWずつ増加
年間必要投資額
800兆円
5兆ドル/年
01
PREMISE

ビジョンは形容詞ではなく「期限と数値」

講演の出発点。孫氏は「日本の社長は就任挨拶で必ず『人の輪』『和をもって尊しとなす』と言うが、アメリカのトップはほぼ言わない。大切だと思っている順番が違う」と切り出した。

形容詞のビジョン / 数値のビジョン
ADJECTIVE / 形容詞 「AIは大切だ」 「たくさん」「すごく」 輪郭がぼやける → 戦略が立てられない NUMBER / 期限と数値 「2040年に」 「世界GDPの20%」 輪郭がはっきりする → 戦略が組み立てられる
どんなに人の輪を大切にしても、船が丘の上に登ってしまえば、全員がとんでもない場所に行く。トップにとって一番大切なのはビジョンと戦略である。

孫氏によるビジョンの定義

まるでタイムマシンに乗って15年後の世界を見てきたかのように、触ってきたかのように語れること。そのためには「期限」と「数値」が要る。

だから今日は全部、数字で話す

「あえて私は、より鮮明な輪郭のはっきりした期限と数字を持って、私なりの意見を申し上げたい」——この宣言が講演全体の設計になっている。

02
HISTORY

最初の20年で勝負は決まる

1995年に始まったインターネット革命では、日本は「ものづくりにこそ魂がある」「ネットは仮想でビジネスモデルがない」と切り捨てた。結果、世界経済の頂点はほぼネット企業が占めた。孫氏の危機感は「AIで同じ轍を踏むな」の一点にある。

置き換える市場の大きさ ── インターネットは「広告」だけだった
インターネット革命(1995〜) 世界GDPの 1%(=広告市場) 世界GDP全体 AI(超知能)革命(〜2040) 世界GDPの 20% たった1%を取った企業群が、いま世界の富の大半を握っている。AIはその20倍の領域を置き換える。

当時の日本の反応

「ネットはガラスの洞窟」「バブルだ」「お金は稼げない」。物づくり中心の価値観から抜けられなかった。

実際に起きたこと

ネット企業がすさまじい勢いでキャッシュを生み、世界経済のトップを引っ張る側になった。

抽出できる法則

最初の20年以内にトップを取れなかった会社は、その後もずっと取れていない。AI革命は始まって数年。今が勝負。

03
SCALE

2040年 ASI経済の規模

講演の心臓部。ASI(Artificial Super Intelligence=人間を超える超知能)が経済のどれだけを占めるのか、孫氏が「自分の頭の中にある明確な数字」として提示したもの。

世界GDPの構成(2040年)と、そこから導かれる数字
20% がAI経済
AI(超知能)が置き換える領域 ── 年間 7,000兆円
従来どおりの経済 ── 15年後もハンバーガーもうどんも食べる

「20%しかないのか」と思うかもしれない。しかしインターネットが置き換えたのは世界GDPのわずか1%(広告)である。その20倍だという意味を考えてほしい、というのが孫氏の論法。

年間売上
7,000兆円

世界GDPの20%

利益率
50%前後

毎年3,500兆円の利益

株式時価総額シェア
80%程度

GDP比率よりはるかに大きい

なぜ時価総額は80%になるのか

株価は「今の利益」ではなく「これからどれだけ伸びるか」の期待込みで評価される。急成長する企業ほど、売上規模以上に市場での存在感が大きくなる。

補足:数字の前提

現在の世界GDPは約1.6京円規模。「7,000兆円=20%」という計算は、2040年までにGDP自体が倍近くまで成長する前提を含んでいる。数字の正確さより、桁のスケール感を掴ませることが講演の狙い。

04
WORKFORCE

誰が働くのか ── エージェント100兆個とヒューマノイド10億体

7,000兆円という売上を、実際に誰が生むのか。孫氏はホワイトカラーと肉体労働を分けて数字を出した。

WHITE COLLAR

ホワイトカラー → AIエージェント

100兆個

普通の社員がこなすのは、せいぜい10〜100種類のルーティンワーク。1,000種類やっている人はほぼいない。だから置き換わる。

決定的な変化は「エージェント同士が会話すること」。100兆個のエージェントが、残りの100兆個と24時間ノンストップでやり取りする。知性のやり取りの中心が人間からエージェントに移る。

人間中心 → エージェント中心への移行度
PHYSICAL LABOR

肉体労働 → ヒューマノイド

10億体

「9億かもしれないし20億かもしれない。でもそれは誤差」。ビジョンに必要なのは正確な予言ではなく、おおよそのスケール感だという立場。

従来ロボットとの違いは決定的。今までは人間がプログラムする道具だった。これからは自ら判断し、自ら物理世界で行動する

肉体労働の主役の交代度
労働力の換算 ── ヒューマノイドは人間何人分か
地球の人口 70億人 うち実際の労働人口 約30億人 ヒューマノイド10億体 100億人相当の仕事量 24時間稼働で人間30億人分 × 速さ・正確さで1体あたり約10人分 = 実質100億人分。人類の労働人口をはるかに超える。
「AIはコンピュータだから人間の頭数を超えて物事は進まない」──とんでもない間違い。エージェントが自らの判断で、自ら行動し、自らコミュニケートする。
05
INFRASTRUCTURE

それを動かす土台 ── 3TW・クエッタ・年800兆円

孫氏が会場に「2040年のデータセンター規模を明確に言える人は手を挙げて」と問い、誰も挙がらなかったパート。「インフラは用意に15年かかる。15年先を考えずにインフラを語るな」というのが主張。

データセンター電力
3TW

24時間365日フル稼働

以降の増加ペース
+1TW/年

毎年積み増していく

演算能力
1クエッタFLOPS

FP4換算・10の30乗

年間必要投資額
800兆円

5兆ドル/年

単位の階段 ── 「クエッタを知らない人がAIを語るな」
ギガ 10⁹ テラ 10¹² ペタ 10¹⁵ エクサ 10¹⁸ 会場の約4割が認知 ゼタ 10²¹ ヨタ 10²⁴ ロナ 10²⁷ クエッタ 10³⁰ 人類が持つ 最大の単位 2040年の目標 ここから先は会場でほぼ誰も知らなかった領域

参考:NVIDIA GB300は1個で約20ペタFLOPS。1,000個つないで20エクサFLOPS。クエッタはさらにその桁違いの先にある。

「年800兆円も投資して採算は合うのか」への答え
年間売上 7,000兆円 年間投資額 800兆円 残る利益 3,500兆円(利益率50%)

合う。年間7,000兆円の売上があるなら、800兆円の投資は誤差レベルで、なお50%の利益が残る。逆に言えば「払える以上には投資できない(それは破綻だから)」。だからこそ最初に売上規模の読みを出す必要があった。
売上の読み → 払えるコスト → インフラ投資、という順で講演全体がつながっている。

エネルギーはどうするのか ── 天然ガスから核融合へ
現在 2026 天然ガス発電 2040年までの主役 核融合(フュージョン) 原料は水 = クリーンかつ安全 3TW データセンター 炭素・温暖化問題は嘘のように消える (孫氏の見立て)

核融合=太陽が光る仕組みと同じ。原料は水、ウランを使わないため暴走事故も高レベル廃棄物もほぼ生じないとされる。しかも核融合の開発そのものをAIが加速させている。イーロン・マスクは「宇宙で太陽光」と言うが、孫氏は「地上の核融合でいける」という立場。

AIはバブルか? とんでもない愚問。
飛行機に乗ったことがない人が飛行機を語り、車に乗ったことがない人が車を語るのと同じ。
孫氏自身は「朝起きて最初にAIに触れ、寝る直前まで触れている」
06
EVOLUTION

なぜ止まらないのか ── 自己増殖と自己進化

講演の哲学パート。地球の生命が40億年かけて到達したのは、たった2つのアルゴリズムの結果だという整理から入る。

2つのアルゴリズムが、生命からエージェントへ引き継がれる
LIFE / 地球の生命(40億年) バクテリア ① 自己増殖 ② 自己進化 この2つが無ければ、生命はバクテリアのまま終わっていた。 同じ2つが備わる AGENT / AIエージェント エージェントがエージェントを作る(自己増殖) エージェントがエージェントを進化させる(自己進化) → 100兆個では止まらない。地球で最も数の多い生命体になる。 その知能は人類をはるかに超える。
時間軸のスケール ── これからの100年は、400万年を超える
400万年前 〜 二足歩行 → 手が自由になる → 道具を使い始める 直近 5,000年 農業革命・国家・法律・印刷機・蒸気機関・産業革命 これからの 100年 400万年分の進化を、はるかに超える進化が起きる
良いか悪いかではない。なるものはなる。なるなら止められない。
日本が止めてもアメリカが動く。アメリカが止めても中国が動く。
だから「拒否する」ではなく「共に進化する」を選ぶべき、というのが次章の結論につながる
07
HUMAN

人間はどうするか ── スーパーヒューマンになる

人類はずっと自分を拡張してきた。ただしこれまでは全部「手足の延長」だった。今回初めて「脳の延長」ができる、というのが孫氏の整理。

これまでの拡張(手足)と、これからの拡張(脳)
PAST / 手足の延長(200〜300年) 速く動きたい → 自動車 高く飛びたい → 飛行機 遠くを見たい → テレビ・ラジオ 目・耳・手・足の拡張は、もうやってきた。 しかし、これらは全部「手足の延長」に過ぎなかった。 NOW / 脳の延長 超知性を身にまとう 自分専用のエージェントを何体も持ち、 自分の思考体系・経験を日々学習させて育てる。 スーパーヒューマンのクライマックス

分身が働き続ける

テニスをしている間も、散歩している間も、夜中も、土日も、自分のエージェントとヒューマノイドが仕事を進める。

では人間は何をするのか

自分が一番やりたいこと、一番感動すること、一番興奮することをやればいい。家族との旅行でも、絵を描くことでも、起業でも、営業でも。

拒絶した人はどうなるか

AIが嫌いだという人は、自ら自分の進化を拒絶したということ。「AIを非難するのは、自らに唾を吐いている」。自分専用のエージェントを持たなければ、その人の進化は終わる。

08
APPLICATION

すでに起きていること、これから起きること

「仮想の世界の話ではなく、実際の業務の世界に入ってくる」ことを示す具体例。すべて講演内で挙げられたもの。

DIAGNOSIS
99%

の医者より正確に診断

講演時点のChatGPT 5.6は、専門職の仕事の99%をスコアで超えた。データさえ入力すれば診断精度で一般的な医師を上回る。金融・不動産・科学も同様。

実用度すでに実用
DRUG DISCOVERY
200

新薬候補の発見スピード

試験管を振って偶然を待つ時代は終わった。AIが候補を大量に出し、ロボットに指示して実験を回し、候補を絞り込む。

実用度進行中
MANUFACTURING
1.5

EVの走行距離(同一電力)

「同じ電力で走行距離を1.5倍にする駆動システムを設計せよ」がAIで実現できる。ライバルより先に到達できたら、その価値はいくらか。

実用度可能
LIFE VALUE
+10

健康寿命の延長

「あと3年」と診断された人に「10年延ばせる」と言えたら、いくら払うか。生涯収入の3割か、5割か。個別化医療は巨大なAI産業になる。

市場規模の期待値極大
部下に聞くより早い。しかもより詳しく、より正確。──孫氏が「毎日死ぬほど使っている」理由。
09
RISK

負の側面 ── AIサイバー攻撃という現実

講演で唯一、実測データを添えて語られた警告パート。従来は人間が攻撃ツールを作っていたが、これからはAIが武器と手法を作り、機関銃のように攻撃を仕掛ける。

自社への攻撃テスト
10,500

20数年間一度も倒れていないソフトバンクの通信システムで見つかった脆弱性。

他社診断(2週間)
63

大企業を中心に診断を実施した社数。

脆弱性の密度
280

コード1,000万行あたり。ソフトバンクとほぼ同じ比率だった。

脆弱性ゼロだった会社
0

テストした63社すべてで見つかった。「皆さんの会社は全社が穴だらけ」。

なぜ「今すぐ」なのか ── 攻撃能力の拡散
米政府が管理 攻撃能力を持つ最先端AIモデルは ごく数社にしかライセンスされていない ソフトバンクが取得 その1社となり、自社に攻撃をかけて 1万500件の穴を発見 中国企業も同等能力(2〜3週間前) =もう防衛しなければいけない 世の中が来た 防衛部隊を緊急編成

ソフトバンクの対応(進行中)

①パッチで穴を埋める作業を開始。②30年前のコードも動いているため、「木造住宅を鉄筋に建て替える」=コード全体のオーバーホールを準備中。

緊急度最高

日本のインフラを守る体制

日本政府とも協議のうえ、この2週間で人事異動を行い専任の防衛部隊を編成。日本のインフラ系3,000社を守りに行く方針。

対象カバー範囲3,000社
10
ROA

経営者への宿題 ── Return on AI

ここから実務提言。孫氏は経営指標そのものを読み替えろと言う。

ROA従来の定義孫氏の定義
正式名称Return on AssetReturn on AI
測るもの資産に対する収益性AI投資に対する収益性
問い資産をどれだけ有効活用したかAIに10億円かけて、10億円以上のコスト削減/収益増になったか
評価スパン単年度3年スパン
誰が測るか財務部門全部門の責任者
3年スパンで測る理由 ── 1年目にリターンは出ない
リターン 時間 → 投資額 1年目 練習の期間。 リターンは十分に来ない。 2年目 少しずつ芽が出る。 3年目 一気にリターンが出る 3年以内に投資を上回ると信じたなら、とことんやるべき。

社長の一番大切な仕事

細かいことを全部チェックはできない。社長が一番大切なのはビジョンと戦略。そして——「AIだ、AIだ、AIだ」と叫び続けること。「我が社はAIで生まれ変わるんだ」と言い続け、社員をエンカレッジすること。全業務のエージェント化を指示し、「やったのか」と毎日チェックする。

自分の得意分野でやればいい

業種を変える必要はまったくない。自社が持つ深い知識・データ・経験値こそが強み。得意な範囲をとことんAI化する。業界2位・3位の会社こそ「これで逆転できる、チャンスだ」と捉えるべき。

AIが仕事を奪うんじゃない。
AIを使う企業が、使わない企業から仕事を奪うんです。
GDPは伸び続ける。仕事は無くならない。移動するだけ。だからAIを敵とみなすな、味方につけろ。
11
ACTION

結論 ── 15年後から逆算せよ

講演の締め。ビジョンの作り方を、そのまま手順に落としたもの。

15年後を起点に、時間を遡って計算する

1
2040 / 15年後
数字で描く
自分の業界はどう変わるか。自社の売上・利益はいくらか。AIが何をどのようにやるのか。ここを懸命に考える。
2
2031 / 5年後
遡って置く
15年後の姿から逆算して、5年後に到達しているべき状態を決める。
3
2027 / 来年
さらに遡る
来年は何をすべきか。ここまで来ると打ち手が具体的になる。
4
NOW / 今日
今すぐ準備する
インフラも人も、用意には15年かかる。だから今日から準備を始める。

やってはいけない経営者

サラリーマン経営者は5年で代わるから「15年後は俺じゃない」と無責任になる。「慎ましやかな社長なんてリーダーじゃない」。この30年で日本経済から元気がなくなったのは、この力強さが足りないからだ。

予言者である必要はない

「魔法のように予言しているんじゃない。調べているんです。考えているんです。毎日考えているんです。」材料は毎日ニュースに出ている。考え続ければ描ける。

過去の経験は役に立たない

人類未踏の世界に行くのだから、先輩が言ってきたことは全部無視するくらいの気持ちが要る。常識が変わる前提で、15年後の会社・部下・家族を真剣に考える。

業界3位のままでいいのか。15年後には世界で1位になる。
そのくらいの気概がなくて社長をやってはダメですよ。それは社員に申し訳ないと思いませんか。
講演の最後、孫氏が会場の経営者に投げかけた問い
12
SUMMARY

1枚まとめと、読み方の注意

講演の論理の連鎖
ビジョンは形容詞じゃない。期限と数値で語れ 最初の20年で勝負は決まる。日本はネットで失敗した 2040年、AIは世界GDPの20%=年7,000兆円 中身:エージェント100兆個 + ヒューマノイド10億体 土台:3TW・クエッタ級演算・年800兆円投資 原理:自己増殖と自己進化。止まらない / 警告:全社が穴だらけ、防衛は今すぐ AIが仕事を奪うのではない。AIを使う企業が奪う。15年後から逆算せよ

この資料の作り方と、引用時の注意

本資料はYouTube自動字幕の文字起こしをもとに整理したもの。数値の聞き取り違いのリスクがあるため、社外資料へ引用する場合は「3TW」「1万500件」「63社/1,000万行あたり280件」「ChatGPT 5.6」などを公式資料や報道で裏取りすることを推奨する。

自動字幕の誤変換 補正一覧

3W3TW(テラワット)
冤山能力演算能力
包ましやか慎ましやか
着替い気概
同じ鉄を踏む同じ轍を踏む
人類未刀人類未踏